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性知識イミダス:性的多様性について知ろう(後編)~差別やハラスメントのない社会をつくるには

イミダス編

 後編では、性的多様性をめぐるさまざまな事柄を例に、性的多様性についてより詳しく解説する。SOGIハラとはどのような行為か、なぜ保守派は性的多様性を攻撃するのか、またSOGIが社会をポジティブに変える可能性について、加藤秀一・明治学院大学社会学部教授にうかがった。

【性的多様性について知ろう(前編)~LGBTって、SOGIって何?】からの続き
【性知識イミダス:性的多様性について知ろう(基礎知識編)】もご覧ください

加藤秀一・明治学院大学社会学部教授

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Q1:最近、SNSのプロフィールの末尾などに「She/Her」、「He/Him」、「She/They」、「He/They」、「They/Them」などと書いている人を見かけます。こういった表記を「ジェンダー代名詞」と言うそうですが、これもジェンダー表現の一種でしょうか。

 その人たちは、自分のジェンダー・アイデンティティに合った人称代名詞を使ってほしいということを、プロフィールを読む人に伝えているのですね。英語では三人称の人称代名詞の単数形は性別によって区別されていて、突きつめればそのこと自体が問題の根っこなのですが、ともあれ人を単数形で表現するときには必ず女か男かを決めなければなりません。そうすると、自分の意に沿わない性別を当てはめられる人も出てきます。そうした問題をなくすために、対象者の性別がわからないときや、そもそも性別を明示したくないときには複数形のTheyを単数形として使い、「They is」のように言うことが増えてきました。これを「ジェンダー・ニュートラル」な代名詞と言います。「ジェンダー代名詞」はもっと積極的に、自分を指すならこういう言葉を使ってほしいと意思表示するものです。

 日本語でももちろん似た問題は生じますが、人称代名詞というものの働きが英語などとは違うので、全く同じ状況ではないように思います。「彼」とか「彼女」とかは日常語としてはちょっと堅い感じがして、むしろ「あの人」とか「あいつ」のような言い方をすることが多いのではないでしょうか。書き言葉としても「彼」「彼女」にはやや翻訳調の感じが残っていますが、それも当然で、もともと日本語の三人称代名詞は性別を問わず「彼」しかなかったのです。19世紀に英語やドイツ語が入ってきた後に、やたらと男女を区別するそれらの言語の影響を受けて、「彼」と「彼女」を区別するようになったと言われています。
 そこから派生した問題として、人間一般を表すのに「彼」を使ったり、男女両方が含まれた集団を男性で代表させて「彼ら」と言ったりすることになってしまった。そんなところまで英語の真似をしなくてもいいのに。

 近年、英語の文献では、そういった点を反省して、人間一般を「she」で表したりしていますが、日本語ではそもそも性別化された人称代名詞なんかやめてしまえばいいのにと思いますね。

Q2:「SOGIハラ」という言葉を聞くようになりました。セクハラ(セクシュアル・ハラスメント)との違いは何でしょうか?

 セクハラとは、地位の上下関係を利用して相手に性的な行為を強要したり(対価型)、性的な意味合いをもつ言動によって相手を不快にさせたりする(環境型)ハラスメントです。この場合の「性的」とは「ジェンダー」ではなく「セクシュアル」に相当する意味ですから、原理的にはどんな性別やジェンダー・アイデンティティの持ち主どうしの間でも起こりえますが、実際には男性が加害者、女性が被害者であることが圧倒的に多いことは周知の通りです。

 それに対して、「ジェンダー・ハラスメント」という概念も作られていて、これはセクシュアルではなくともジェンダー差別的な言動や、ジェンダー役割を押しつける言動を指します。英語では「gender-based harassment(ジェンダーに基づくハラスメント)」とも言います。文献によってはセクシュアル・ハラスメントの一種として位置づけているものもありますが、こうした点にあまりこだわる必要はないでしょう。

「SOGIハラスメント(SOGIハラ)」という言い回しは日本語のメディアではかなり広まっていますが、英語ではそのままの表現はあまり見かけない気がします。それでも、セクシュアル・ハラスメントという概念を広めたアメリカ合衆国の雇用機会均等委員会(EEOC)のウェブサイトには「SOGI差別およびハラスメント(SOGI Discrimination & Harassment)」という項目があって、「性的指向(例えば、ゲイまたはストレートであること)」や「ある人がトランスジェンダーであることやジェンダーを移行したこと」を攻撃したり貶めたりする発言がそれに該当するとされています。また、トランスジェンダーの被雇用者を本人の望まない名前や人称代名詞で呼ぶことも、故意にしつこく行えばハラスメントになるとされています。

 つけ加えておけば、「セクハラ」「パワハラ」「SOGIハラ」といった概念は、それぞれ行為の異なる側面に着目したものなので、必ずしも相対立するわけではありません。「会社で強い立場にある人が性的マイノリティの部下などに対してセックスに関連する言葉で罵る」といったケースは、上の3種類のハラスメントが同時に行われています。

Q3:他人のセクシュアリティを他言する「アウティング」も、SOGIハラの一種でしょうか。アウティングがなぜ、どんな点で問題なのかもお教えください。

 まず、当人が自分の意志で自分の性的指向について公言することを「カミングアウト」と言います。これとは違って、他人が隠している性的指向について、本人の許しを得ずに世間に暴露することを「アウティング」と呼びます。カミングアウトと同様に、アウティングという言葉も最近は意味が広がって、他人の秘密を本人の許可なしに他の人に伝えること、とりわけ対世間的に本人の不利益になるような情報を広める行為一般を指すこともありますが、もともとは他人がレズビアンやゲイであることの暴露を意味する言葉、つまり同性愛者が社会の中で生きていくことにつきまとう特有の困難を表す言葉であることは忘れないでいたいと思います。

 典型的なアウティングは、同性愛者が好きになった相手に告白したり、信頼する友人にカミングアウトしたりしたところ、相手がそのことを周囲の人々に勝手に言いふらすというパターンです。この言葉が広く知られるきっかけになった一橋大学での事件もこのパターンにあてはまるものでした。ここにはアウティングの問題性が何重にも折り込まれています。

 そもそもの大前提として、他人の秘密を勝手に暴き立てるということは、政治家の汚職について報道するといった公共性のある正当な理由がない限り、私人間のモラルとして許されることではありません。とりわけ、せっかく自分を特別に信頼して真実を打ち明けてくれた人に対してそうした攻撃を返すことは、無関係の他人からの噂などよりはるかに深く相手を傷つけるのだから、下衆なふるまいだと責められても仕方ないでしょう。
 しかも同性愛のアウティングには、そうした男女間の恋愛関係などにも起こりうるようなモラルや気持ちの問題に加えて、相手を勤め先に居づらくさせたり、家族とのトラブルを引き起こしたり、地域に住みにくくさせたりすることで、その人の社会生活の基盤を、さらには生存そのものを脅かす暴力性があるのですから、単なるモラルの問題には収まりません。法的にも他人に損害を与える行為として理解すべきだと思います。


Q4:法務省の人権冊子から「性自認」「性的指向」等の言葉がなくなったという報道がありました
(*1)。背景には、自民党保守派議員の誤解に基づく主張があるとしていますが、なぜこうした誤解が生まれるのでしょうか。

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イミダス編

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