性知識イミダス:男性不妊症について知ろう~男性不妊症に「特効薬」はあるのか?
イミダス編
(構成・文/加藤裕子)
――自宅で精子の状態をチェックできるキットがネットなどで販売されていますが、どれくらい正確なのでしょうか。
自分の精子の状態を知るためのひとつの入り口としては、キットはよい方法だと思います。ただし、光の当て方などで見え方にばらつきが出てきますから、正確な結果がほしいのであれば、やはり専門の検査機関での測定をお勧めします。また、精子の状態は日によって変化しますので、とりあえずキットでのセルフチェックで2回、あまりよくない結果が続いたときは受診し、検査するのがよいでしょう。2回のうち一度でもよい結果がでていれば、あまり気にする必要はないと思います。
ただ注意してほしいのは、精液検査の結果が100%、妊孕力を示すものではない、ということです。検査結果があまりよくなくても赤ちゃんができる人もいますし、逆によい検査結果でも2〜3割が妊娠に至らないという報告もあります。ですので、女性の不妊症と同じく、避妊をやめて1年間パートナーが妊娠しなかったら、早く不妊治療専門の医療機関を受診しましょう、ということですね。
――検査も含め、男性不妊症の診察を受けるときは、どこに行けばいいのでしょうか。
男性生殖器に関する症状は泌尿器科で診察することになりますが、すべての泌尿器科医が男性不妊症を診られるとは限りません。無精子症で精子を採取できなかったり、遺伝子的な疾患があったりするケースなど、高度な治療やカウンセリングが必要になることもあります。日本生殖医学会のサイトで公表されている認定医のうち、専攻が「泌尿器科」となっているのが男性不妊症の専門医です。
専門医がいる医療機関を受診できればそれに越したことはありませんが、男性不妊症の専門医は全国で実質70人程度しかいませんし、都市部に集中しがちで地域差があります。男性不妊症の場合、とにかく重要なのは精液検査ですので、男性不妊症専門医を受診するのが難しいときは、まずはパートナーと一緒に婦人科系の不妊治療医療機関で相談するのがよいと思います。
不妊治療の目標、つまり赤ちゃんをつくるためには、早く治療をスタートすることが大切です。まずは検査を受けてみて、結果がよくなければ、超音波検査や血液検査、触診等、男性不妊症の医療機関でより専門的な診察を受けて治療方針を検討するというステップになります。
「自分は男性不妊症ではないか」と不安だったり、検査や治療を受けて心配なことがあったりするときは、主治医の他、受診している医療機関にカウンセラーがいることもありますし、全国に設置されている不妊専門相談センター、地域の助産師会等でも相談にのってくれると思います。
男性不妊症予防のためにできることは?
――男性一人一人が有する精子の数は、この数十年で世界的に減少傾向にあるという調査報告を読んだことがありますが、男性不妊症は増えているのでしょうか。また、男性不妊症の予防のためにできることは何かありますか。
男性不妊症に対する認知度は上がっていると思いますが、実際に男性不妊症が増えているかどうかは、そもそも統計が取られていないので、「わからない」としか言いようがありません。
その上で男性不妊症の予防で大事なことは、繰り返しになりますが、やはり日々の生活習慣の改善ということになるでしょう。これは男性不妊症の臨床に長く関われば関わるほど、実感するようになったことです。
参考にしてほしいのが、国立成育医療研究センターが公開している「プレコン・チェックシート」です。「プレコン」は「プレコンセプションケア」(コンセプション=受胎のこと)の略で、女性だけではなく男性も、将来子どもを得たいと思うなら生活や健康に向き合おうという考え方です。チェックシートは女性用と男性用があり、男性用に記載されている項目は、「バランスの良い食事をこころがけ、適正体重を維持しよう」「たばこや危険ドラッグ、過度の飲酒はやめよう」「ストレスをためこまない」などといったもので、言ってみれば健康を維持するためにはあたりまえのことばかりです。

国立研究開発法人国立成育医療研究センター「プレコン・チェックシート」はこちら
私の意見ではこのチェックシートにもうひとつ、不適切な方法でのマスターベーションによる射精障害を防ぐために、「適切なマスターベーションの方法を知ろう」も入れる必要があると考えています(「性知識イミダス:オトナも知ろう! 思春期男子が学ぶべき「射精道」とは」参照)。
ただ、現代社会において、「ストレスをためこまない」と言われても「わかっちゃいるけど、できないよ」という人もいるでしょう。人間を取り巻く環境自体、ここ100年で大きく変化しました。夜でも明かりに照らされ、スマホに頼り、パソコンの前に座ってばかりという生活に人間の体が追いついていないという面もあると思います。そういった諸々が精子の状態に影響を与えているのかもしれません。だからといって山の中で原始的な生活をするというのは現実的ではありませんから、常識的な範囲で折り合いをつけていくしかないのだと思います。
チェックシートのうち、基本的な生活習慣以外で意識してほしいのが、「感染症から自分とパートナーを守る」という項目です。実は性感染症と男性不妊症の関係は結論が出ていないものも多くあります。クラミジア感染症が男性不妊症に関係が「ある」という論文も出ていますが、臨床の現場で実際に患者さんのデータを取ると、何らかの性感染症に罹患している人は2〜3%とごくわずかだったりします。
とは言え、クラミジア感染症や淋菌感染症は女性にとって明確な不妊症の原因ですから、パートナーに感染させないように注意してほしいです。特にクラミジアは男性の半分に自覚症状がないため、本人が気づかないうちにパートナーを感染させてしまうこともあります。他にも、マイコプラズマ・ウレアプラズマ感染症、トリコモナス症、ウイルス性肝炎、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染症など、男性不妊症と関連する可能性があると言われている性感染症がいくつかあります。子どもがほしいと思う人は、早めに検査しておくとよいでしょう(「性知識イミダス:性感染症の基礎知識」参照)。
――このチェックシートには、2023年12月の改訂版で「HPVワクチンをうとう」という項目が加わっています。HPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチンは、子宮頸がんに対する予防効果が有名ですが、男性もHPVワクチンを打ったほうがよいのでしょうか。
HPVは男女を問わず中咽頭がん、肛門がん、尖圭コンジローマの原因にもなりますが、特に女性にとって子宮頸がんを引き起こすリスクが高く、女性の妊娠・出産に重大な影響を与えます。HPVは性交渉によって感染するので、男性もワクチンを接種していればパートナーへの感染を防ぐことができるのです。
また、HPV陽性の男性の精液検査では精子の運動性低下が見られるという報告もあるので、ワクチン接種は男性不妊症の予防にもつながると言えるでしょう。
現在、日本で承認されているHPVワクチンのうち、男性が接種できるのは4価ワクチン(商品名:ガーダシル)のみで、医療費は自己負担です。計3回接種する必要があり、全体の費用は5万~6万円程度になりますが、自治体によっては男性にもHPVワクチンの接種費用を補助するところもありますので、ぜひ検討してほしいですね。
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