連載書籍化スペシャル 第2弾 俺たちは純文学に酔っている(ゲスト/古川真人)
俺は平凡を書きたい

鴻池 古川くんは、日頃何かに抑圧を感じることとかある?
古川 うーん、強いて言えば政治だね。
鴻池 へー、そうか政治なんだ。普段から自分の生活が政治に影響されていると思うの?
古川 うん。芥川賞をとる前までは、政治的なことを作品に入れていたんだよ。
鴻池 芥川賞とって書けなくなった?
古川 いや、コロナ騒ぎになって、世の中がおかしくなると現実にフィクションの政治が勝てないというか。
鴻池 ああ、わかる気がする。
古川 いま、高市政権下で、小説家のなかでも、世の中に不安を感じてSNSとかで政治的なメッセージを積極的に発している方がいる。それ自体は、何の皮肉でもなく本当に偉いと思う。でも、俺はちょっとできない。俺は去年、親父が死んだんだよ。今年の2月に帰省して、親父の遺品の整理や片づけをしたわけ。ゴミ袋にどんどんゴミを入れていく。その一方で、2月だから衆院選で自民党が高市人気で大勝ち。でもね、俺にとっては親父の遺品を片づけるほうが重要なわけ。そのとき、自分が小説のなかで政治とか書くことの脆さを感じた。だってなんの関心もないんだから。高市なんかより、親父のものを早く片付けて母が借りている家を出払わなければならなかった。俺と俺の家族にとってそっちが大事なんだよ。テレビもネットも見てられないんだから。これは必ずしもいいことだとは思わない。でも、本音だし、自分にとって本当に大事なことを書くしかないと思ったね。
鴻池 とてもいい話だな。
古川 現実と小説をつなげるのって難しいんだよ。うまくいま起こったことをつなげられる作家もいれば、俺みたいに全然ダメな作家もいるわけだ。
鴻池 コロナより前の小説では、現実に起こっている政治的なこととかを入れられた実感はあるの?
古川 あったよ。無理して頑張って政治的なアンテナをピンっと張っていた時期があったね。読んでいる人に伝わっていたかはわからないけど、自分の中では作品に現実を取り込めた実感があった。
鴻池 じゃあ、古川くんは今後の野望みたいなものはある?
古川 なんだよそれ、ないよ。まぁ、来年もちょこちょこ短編とか長編、書けたらいいなあって思ってますよ。というか、あんま長い計画立ててもどうせ頓挫するでしょう。
鴻池 じゃあ、こういうのが書きたいは?
古川 俺は平凡を書きたいね。さっきの政治云々の話とつながるかもしれないけど、俺はね、普通とか平凡が好きなんだよ。すごい好きなの。好きというか、平凡っていうのが一番、最強なんだよ。さっき純文学の主人公が小粒でおとなしくなっているって批判的に言ったけど、俺はそれが書きたいね。平凡に生きて、子供を作って、ごく普通の父ちゃん、母ちゃんになる人たち。そういう人たちは、怖いところもあるんだよ。極端な話、戦争になったら軍部の命令とかを忠実に実行して敵兵を平気で殺すかもしれない。あるいは、他人を見殺しにしても、ずる賢く生き抜いて戦後に「平和が大事なんです」とか平気で言うかもしれない。でも、俺はこのごく平凡な人間の営みが一番すごいと思っている。これは純文学にしか書けない。このごく平凡な人を書けるのが純文学だよ。あっ! あの締めのセリフ出るのか。
鴻池 実はあれ言ったことないんだけど、初めて言います。「最後にとてもいい意見が聞けました。今日はありがとうございました。」
古川 何言ってんだ! まだまだこれからばい! 日本酒いこうよ。二次会はどこでやるの?
鴻池 今日は帰るよ。古川くん、まっすぐ歩けてないからね。金曜と同じじゃねぇかよ。(収録日7月1日。2人とも6月26日川端賞贈賞式のあと、深夜2時過ぎまで飲んでいる)
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