座談会 「1995」とは何だったのか/⑤「リベラル」と「保守」
(構成・文/加藤直樹)
吉田 分かります。ただ、これは旧来の戦後革新の典型的な反応ではないでしょうか。政府の政策に問題があればこそ、批判するだけじゃなくて、それを正すように働きかけていく、政治参加していくというのが、本来的な主権者のあり方であり、リベラルのあり方だからです。日本の根強い政治不信は、戦争に負けたという歴史的な背景もあるので、気持ちは分かるんですが、でもこの政治不信を解消しない限り、民主主義は成り立たないんですよ。ノーベル経済学者、アセモグル/ロビンソンの定式を借りれば、リヴァイアサン(国家)の専横を許してはいけないけれど、不在であっても、国民は守れない。必要なのは、リヴァイアサンに足かせをはめることです。
戦後の左翼、その後のリベラルって、基本的に「国家は私的領域に介入するな」という考えで国家権力に対峙してきたでしょう。だから増税には反対。公共事業にも否定的。でもそれでは本当にリベラルな政策は実現できないし、社会保障をはじめとした国の支えがなくてもお金に余裕がある人だけが得をする社会になってしまう。
やっぱり、日本の民主主義のボトルネックは政治不信にあるんです。有権者が政治を信用しないから、政治家の側も耳当たりのいいことだけ言って選挙に勝とうとする。それがまた有権者の不信を招く。悪循環ですよね。だから、政治不信を原動力とするのではなくて、政治参加を積極的に勧めるべきなんですよ。参加によって修正していくんです。
香山 どうやって政治参加をするんですか。選挙に出るとか、政治家になるとか?
吉田 政治参加のチャンネルはいろいろありますよね。政治運動、社会運動もある。リーダーの呼びかけに応えて動くっていうフォロワーシップも大事でしょう。
保守に問われるアメリカとの距離感
浜崎 たしかに、民主主義は「多数者の専制」となって暴走する可能性があるので、怖いのは分かるけれども、その一方で、「立憲主義で国家権力を縛るべき」とか空念仏を唱えているだけでも意味がない。その憲法を作るのも結局、「民主主義」なんですから。
ではどうするべきなのかと言えば、結局、人格や常識が育つ小さな中間共同体(家庭、地域、学校、会社)を強化するしかないと思うんです。そして、その中間共同体を強化するための政治、積極財政を含んだ「大きな政府」のあり方を考えるべきでしょう。
でも、日本の場合、これまでは政府権力の上にもっと大きな権力があって、それがアメリカだったんですね。だから、戦後日本人は真剣に国家を論じなくても済んだんですよ。
しかし、そろそろ、そう言っていられなくなってきた。そのとき、改めて問われるのは、どうやってアメリカとの距離を取るのかということでしょう。イラン攻撃を見ても分かると思いますが、もう対米依存でやっていくのは無理ですよ。だとすれば、どうやって自前で安全保障環境を用意するのか、何を基軸として、私たちの国家を運営していくのか。 その辺りに対する答えを用意しないと、リベラルへの信用は取り戻せないでしょうね。

浜崎洋介氏
吉田 でもそれは、むしろ保守の側こそが抱えている本質的な矛盾ですよね。日本の国家主権を強調すればするほど、アメリカとは距離を取る必要があるし、その逆も然りです。それこそ、三島由紀夫や江藤淳が問題視したことです。これは保守が解決しなければいけない問題だと思う。
浜崎 仰る通りです。だから「対米従属」を批判する必要があるんです。
吉田 そこに“左翼ワンセット”ならぬ、“右翼ワンセット”があるんですよ。
浜崎 実は、保守にも二つあると思うんです。「親米保守」と、そんな言葉はないけれど「親日保守」(笑)。これまでは「親米保守」しかいなかったんですよ。でも、これからは、日本の価値観を見定めた「保守思想」がどうしても必要なんでしょうね。
(「⑥これからの日本の生きる道とは」につづく)
著者情報
作家、活動家
雨宮処凛
あまみや かりん
1975年、北海道生まれ。反貧困ネットワーク世話人。バンギャ、フリーター、右翼活動家などを経て2000年、自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版/ちくま文庫)でデビュー。2006年からは貧困問題に取り組み、『生きさせろ! 難民化する若者たち』(2007年、太田出版/ちくま文庫)は日本ジャーナリスト会議のJCJ賞を受賞。著書に『学校では教えてくれない生活保護』(河出書房新社、2023年)、『死なないノウハウ 独り身の「金欠」から「散骨」まで』(光文社新書、2024年)など多数。
医師
香山リカ
かやま りか
1960年北海道生まれ。東京医科大学卒業。学生時代より雑誌等に寄稿。その後、精神科医として臨床に携わりながら、一般読者向けの著作活動を行う。著書に『女は男のどこを見抜くべきか』(集英社)、『執着 生きづらさの正体』(集英社クリエイティブ)、『「いじめ」や「差別」をなくすためにできること』(ちくまプリマー新書)、『61歳で大学教授やめて、北海道で「へき地のお医者さん」はじめました』(集英社クリエイティブ)など多数。
文芸批評家
浜崎洋介
はまさき ようすけ
1978年埼玉生まれ。雑誌『表現者クライテリオン』編集委員。京都大学大学院特定准教授。2022年『小林秀雄の「人生」論』(NHK出版新書)で、第31回山本七平賞奨励賞受賞。そのほかの著書に『福田恆存 思想の〈かたち〉イロニー・演技・言葉』(新曜社)、『反戦後論』(文藝春秋)、『三島由紀夫 なぜ、死んでみせねばならなかったのか』(NHK出版)、『ぼんやりとした不安の近代日本』『小林秀雄、吉本隆明、福田恆存――日本人の「断絶」を乗り越える』『日本人の「作法」 その高貴さと卑小さについて』(いずれもビジネス社)がある。
同志社大学教授
吉田徹
よしだ とおる
1975年生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。専門は比較政治学、ヨーロッパ政治。著書に『ミッテラン社会党の転換』(2008年、法政大学出版局)、『二大政党制批判論』(2009年、光文社新書)、『ポピュリズムを考える』(2011年、NHK出版)、『感情の政治学』(2014年、講談社)、『「野党」論』(2016年、ちくま新書)、『アフター・リベラル』(2020年、講談社現代新書)などがある。