高度プロフェッショナル制度がはらむ問題点
笹山尚人(弁護士)
(構成・文/海部京子)
高プロへの不安や懸念に対し、政府は「労働時間を自ら決める能力のある労働者を対象とする制度だ」と強調します。「適用には本人の同意が必要で、企業側が長時間労働を強要することはない」というわけです。しかし、いったん高プロに同意してから、専門ではない仕事を押し付けられて、長時間労働を余儀なくされるようになった場合に、果たして労働者側から「こういう矛盾を見直してほしい」とか、あるいは「高プロをやめます」と言えるでしょうか。自分の仕事に高いプロ意識を持っている人でも、労働者としての権利に精通し、しっかり企業側と交渉出来るとは限りません。
自民、公明、維新、希望の4党は法案の修正協議を行い、高プロを適用された労働者が撤回する手続きを定めることで合意、厚労省へ検討を要請しました。それでも、労使の力関係からいって現実に撤回するのは難しいでしょう。
国会会期末まで私たちは諦めてはいけない
働き方改革一括法案は衆議院を通過(5月31日)したのち、参議院でも議論されていきます。主要野党は、参院でも高プロの法案からの削除を求めるはずですが、厳しい状況であるのは確かです。「働き方改革国会」と銘打って、今国会中の成立を目指す政府に押し切られる確率は高くなってきました。
だからといって、希望を捨ててはいけないと思います。高プロはここまで述べてきたように、いろいろな問題をはらんだ制度です。参院の委員会でも野党の議員が引き続き追及することで、厚労大臣は苦しい答弁をせざるを得なくなるでしょう。それは政府の横暴に歯止めを掛けることにもつながります。
この法案が成立したとしても、参院での議論の内容次第で附帯決議が付く可能性があります。例えば「施行から3年後には実態がどうなっているのかを調査し、調査に基づいて法を見直す」とか「労働政策審議会において調査結果を検証する」といった附帯決議がなされれば、そこから再度議論していくことも考えられます。そうすれば制度を改善することが十分可能になるのです。
そのためには、世論喚起が必要です。具体的には、国会では野党の議員にがんばってもらい、私たち労働問題に詳しい専門家は長時間労働がどれだけひどい害悪をもたらしているのかを社会に発信していく。これまでにも報道やSNS、「全国過労死を考える家族の会」のみなさんの言葉、国会前や路上でのデモなど、さまざまな人々がさまざまな形で発信してきました。そういった積み重ねが、少しずつでも世論を動かしていくはずです。
高プロにあまり関心のなかった人たちにも情報が伝わり、考えるきっかけになればいいと思います。改めて自分たちの労働実態をきちんと把握し、労働が身体や生活にどのような影響を及ぼしているのかをチェックすることで、自分の健康を守ることが出来るようになるからです。
国会会期末までに私たちができることはたくさんあります。そして、法律が成立したとしても粘り強く社会に訴え続けていきましょう。そうすれば労働環境は、より良いものにきっと変わっていくはずです。
著者情報
弁護士
笹山尚人
ささやま なおと
1970年北海道生まれ。弁護士。94年中央大学法学部卒業。2000年弁護士登録。第二東京弁護士会に所属。東京法律事務所に入所。主として、青年労働者や非正規雇用労働者の権利問題、労働事件や労働問題を扱って活動している。著書に『人が壊れてゆく職場』『それ、パワハラです』『ブラック職場』(以上、光文社新書)、『労働法はぼくらの味方!』『パワハラに負けない!』(共に、岩波ジュニア新書)、『ブラック企業によろしく』(KADOKAWA)等がある。