性知識イミダス:ネットのアダルトコンテンツについて考えよう(後編)~ネットで「安心安全に」性を学ぶ仕組みをどう作るか
イミダス編
(構成・文/加藤裕子)
学校で適切な性教育がほとんど行われていない中、子どもたちにとっては、身近なネットの世界が性を知るきっかけとなりがちだ。だが、それによって生まれる問題が多々あることは、前編で「アクロストン」のおふたりが指摘する通りである。
この問題について、今年4月、デジタルネイティブとして、子どものときからアダルトコンテンツ(成人向けの主に性的なメディアコンテンツを指す)にさらされてきた世代が声を上げ、「安心して性知識が得られるサイトを検索上位に出してほしい」というオンライン署名活動を始めた。
【「ネットのアダルトコンテンツについて考えよう(前編)~「アダルトコンテンツ=性の教科書」論の何が問題なのか」はこちら!】

デジタルネイティブ世代の問題意識
大学生の前田かや子さん、伊東勇気さん、中島梨乃さんが立ち上げた「SEOセックスプロジェクト」の元には、7月21日現在、約2万9300人の署名が集まった。SEOは「検索エンジン最適化(Search Engine Optimization)」の略で、ネットの検索結果の表示順位を調整することを指す。ちなみに、スウェーデンで「SEX」と検索すると、ユースクリニック(若者が自分の体や心の悩み、性のことについて無料で相談できる施設)や国営薬局のヘルスケアサイトが上位に表示される。一方、日本ではアダルトコンテンツが検索上位に並ぶのが現状だ。

左から伊東勇気さん、前田かや子さん、中島梨乃さん(2021年4月30日、厚生労働省)(提供:SEOセックスプロジェクト)
中島さん「自分が小学校2年生ぐらいのときに初めて『セックス』で検索し、出あった情報はアダルト動画サイトでした。そこから自分の性に対する印象が歪んできたという感覚があって、そのことについての問題意識はずっと持っていたんです。スウェーデンでの事例のほか、フランスで「lesbienne(レズビアン)」という言葉でグーグル検索するとポルノサイトばかりが上位に表示されていたのが、ネットでの抗議運動などを受け、グーグルが「lesbienne」という用語の検索結果を変更するためのアルゴリズムを開発したと知り、日本でも同様の取り組みが必要だと、行動に移すことにしました」
やはり小学生のときからネットを使っていたという伊東さんも、友人たちとゲーム機でアダルトコンテンツに触れる機会が早くからあったと言う。
伊東さん「当時はまだフィルタリングもあまり普及していなかったということもあって、性について知りたいときに最初に触れるのがアダルトコンテンツという状況でした。もちろん、間違った情報や偏った女性像を植え付けられてしまうということも問題なのですが、アダルトコンテンツばかりが検索上位にくることで、純粋に自分が性に関することで困ったときに、検索しても知りたい情報が出てこないということも多かったんです。
だから、有害なものに触れないようにフィルターをかければいいということだけでもなくて、必要とするときに信頼できる性の情報にアクセスできるようにしてほしいということも、『SEOセックスプロジェクト』の目的です」

(提供:SEOセックスプロジェクト)
3人とも、自分たちは学校で必要な性教育を受けてこなかったと振り返るが、そうした状況で、本当に性の知識が必要になったときにまず頼るのは、やはりネット検索だという。
伊東さん「僕たちの世代は『Yahoo! 知恵袋』 をよく利用しますが、間違ったことを書いている答えでも『ベストアンサー』になっていたら、それが正しいと思ってしまいます。僕が見た中では、『同じ日に2回セックスするとき、2回めはコンドームなしでも性器を洗えば避妊は完璧だ』というような、明らかに間違っている『ベストアンサー』がありました」
中島さん「私も『Yahoo! 知恵袋』に性の悩みを書き込んだことがありますが、結局答えはわからず、誹謗中傷されただけだったという経験があります。もちろん、学校の性教育を充実させることは大切だと思います。でも、ユネスコの国際セクシュアリティ教育ガイダンスで示されているような、人権などまで網羅した包括的な性教育を日本の学校で行えるようになるまでにはまだ時間がかかるでしょう。
それに、どんなに性教育が充実したとしても、学校で教えられることって、『自分には関係ない』とあまり聞いていない生徒が必ずいるんですよね。そもそも学校に行けない、行っていない人たちもいます。だからこそ、インターネットで誰もが適切な知識を得られるようにすることが必要だと思います」

男子、女子とも、中学から高校になると「役に立つ」の割合が増えて「役に立たない」の割合が減るが、高校から大学になると「役に立つ」は減り、「役に立たない」の割合が増える
性の情報を「需要が多い」順で上位に上げていいのか
前田さんは16歳のときに性暴力の被害に遭った。身近な人にも相談できず、インターネットで支援情報を探したが、適切な情報にたどりつけずケアを受けられなかったことで、一時、自殺未遂をするまでに追い詰められたという。
前田さん「自分が性暴力の被害者であることを公表してこのプロジェクトを立ち上げたことで、『私も支援につながるまですごく時間がかかった。もしもっと早く適切な情報にアクセスできれば、今こんなにPTSD(心的外傷後ストレス障害)に苦しんでいないかもしれない』という声をたくさんいただきました。
被害者がどういうワードで検索をかけるかというのは一概には言えませんが、たとえば、『痴漢』で検索すると、一番上に出てくるのは加害者のための弁護士の広告だったりします。痴漢冤罪という問題があることは認識していますが、被害者が支援を求めてネットの情報を探すときに、加害者のための情報がトップに出てくるというのでは、セカンドレイプにもつながりかねません。
また、ネット検索でいち早く支援に繋がる事は、PTSD、妊娠、性感染症など性被害後のあらゆるリスクを防ぐためにも大切です。命や人権を守るために必要な情報が埋もれてしまうことがないようにしてほしいと考えています」

前田かや子さん(提供:SEOセックスプロジェクト)
前田さん「結局、今のネットの仕組みでは、需要が多い方が上位に上がってくるので、アダルトコンテンツにアクセスしやすいという状況は、それだけ見る人が多いし、利益を生んでいるということだと思います。けれども、性に関する情報は、売れるものが良いという経済や多数決の論理だけで括ってはいけないと、わたしたちは考えています。
企業として需要に応えることが原則だとしても、性のような命や人権に関わることは例外として、適切な情報にアクセスできるよう、プラットフォーム側が整備することが必要ではないでしょうか」
中島さん「今の社会ではアダルトコンテンツを子どもたちに見せないということは、絶対に無理だと思っています。だからこそ、適切な性の知識を学び、アダルトコンテンツとはどういうものかということをまず知ってから見るようにしてほしい。今はその順番が逆になってしまっていることが問題なのだと感じています」
見えてきた変化の兆し
「SEOセックスプロジェクト」に対しては、「ペアレンタルコントロールやセーフサーチをつければいい」「『とは検索』をすれば解決できる」など、ネットリテラシーについて“助言”する反応も少なくなかったというが、問題はそこにあるのではない。
伊東さん「たぶん、ネットリテラシーを教えようとする側より、ネットにずっと触れてきた僕らの世代の方がリテラシーがあるんです。助言されたようなことはだいたいすでに試していて、それでも、ネットの性情報で必要なものが見つけられなくて困っているということ。インターネットが安心安全な性教育の学びのプラットフォームになるには、今のままでは厳しいと思います」

伊東勇気さん(提供:SEOセックスプロジェクト)
「SEOセックスプロジェクト」が求めているのは、アダルトコンテンツがまったく検索に引っかからないようにすることではなく、より安全に性を学べるようにネット環境を変えていくことだ。
とはいえ、ネット検索でどのようなサイトが上位に上がるかという仕組みを変えるには、プラットフォーム側にコストの負担が伴う。また、どのようなサイトが「性についての適切な情報か」という基準もはっきりとはしていない難しさがある。