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性知識イミダス:インティマシー・コーディネーターってどんな仕事?(前編)~性的シーンの撮影現場を「加害の場」にしないために必要なこと

イミダス編

(構成・文/加藤裕子)

 日本では、職場におけるハラスメント防止のために、事業者は雇用管理上必要な措置を講じることが義務とされています。そのため、一般の企業では規模を問わずパワハラ防止法が適用され、たとえば「特定の人に対して、人の見ている前で人格を否定するような攻撃的な言葉を大声で浴びせる」などの行為がハラスメントであり、NGだということは常識となりつつあるようです。しかし、エンターテインメント業界でこうしたハラスメントはまだ普通に見られる光景で、夢を持ってこの業界に入ってきた若い人たちが、ひどいハラスメントを受けて去っていくというケースが後を絶ちません。

「これはおかしいんじゃないですか」と異議を唱えてもなかなか変わらない現状に限界を感じ、「一度、仕事を休もう」と思っていたとき、たまたまインティマシー・コーディネーターという職業があることを知りました。日本で仕事として成り立つかどうかわからないまま、現場を変えるために何ができるかと考え、専門性を身につけたいと、資格を取るための勉強を始めました。ちょうどコロナ禍が始まった頃で渡米できず、日本からオンラインでの受講となりましたが、75時間の座学と多くの課題図書を通して、ジェンダーやハラスメントの問題など、それまでなんとなくわかっている気になっていたことが明確に言語化できるようになり、ハラスメントや心理的安全性についての知識の幅も大きく広がったと思います。

 ―― 一般の社会では受け入れられないハラスメントがエンターテインメント業界で横行し、その状況をなかなか変えられない原因はどこにあると思いますか?

 ひとつは、さっきも言った「おもしろいものを作るためなら、何をしてもいい」というメンタリティです。ハラスメントを受けた人が、思い切って誰かに相談したとしても、「気持ちはわかるけど、いい作品にするために、みんなでがんばろうよ」と言われたら、その瞬間に心が折れてしまうでしょう。そうやって、結局ないことにされるとなれば、声を上げることすらあきらめてしまうことになりますよね。

 もうひとつの大きな問題は、この業界のジェンダー・バランスが圧倒的に男性優位に偏っているというところにあると思います。私の周りでは特に意思決定権を持っているのはほとんど男性だったので、どうしても男性目線で物事が判断されがちです。男性ばかりが並ぶ中で女性は一人だけという場では、女性の視点から「これは問題がある」と指摘しても、理解されるのは難しいでしょう。

 もちろん、パワハラやセクハラは日本だけではなく世界中で起こっている問題です。ただ、海外のエンターテインメント業界では、誰かから被害に遭ったという訴えがあれば、映画会社など関連する企業が事実関係を調査し、非があることが明らかになれば、今は加害者を辞めさせることもあります。これは、どのような大物監督やプロデューサーであっても変わりません。

 ――ハラスメントをしたら、どんな大物でも辞めさせられるというのは、すごいですね。

 でも、そうあるべきですよね。もちろん、被害者の言い分だけを聞いて辞めさせるわけではないし、きちんと調べた上でのことですが、はたして日本で同じことができるでしょうか? 「あれは表現のためだからしかたなかった」「そんなことを言ったら、いい作品は撮れない」などと言う人もいますが、今の時代は、制作過程で加害がなかったかどうかも含めて、作品が評価されます。そもそも人を傷つけなければ素晴らしい作品を作れないというのは詭弁ではないでしょうか。

インティマシー・コーディネーターはすべてのジェンダーのために存在する

 ――性的な話というと、身構えたり、恥ずかしいと思ったりすることもあると思います。西山さんは俳優や制作陣とどのようにコミュニケーションを取っているのでしょうか。

 日本では性についての話はタブーという空気がありますね。でも猥談ではなく仕事の話をしているわけですから、性について話すことをいやらしさに結びつけないようにしています。台本に書かれている言葉を使うことを前提としつつも、「おっぱい」ではなく「胸」、性器についても俗語ではなく女性器、男性器と言います。また、私は「セックス」を「エッチ」、「キス」を「チュー」、「マスターベーション」を「オナニー」と言い換えることがすごく嫌なので、俳優や制作スタッフにも「私はこういう言葉が嫌なんですけど、何か嫌な言葉はありますか?」と聞くなど、できるだけ性に関することをオープンに話しやすい環境を作ろうと心がけています。私の方からフラットに話していけば、案外、皆さんも気にせずに話してくれますね。


 ――インティマシー・コーディネーターは女性の俳優を守ることが仕事なのでしょうか。

 よくそう言われるのですが、インティマシー・コーディネーターはあらゆる人、ジェンダーのために存在しています。インティマシー・シーンで傷つく可能性があるのは女性だけではありません。バラエティ番組などで、男性の俳優に対して「○○さん(女性俳優)とキスシーンがあったんでしょ」などと、「いい思い」をしたかのように茶化すところを見ることがありますが、私が知っている限り、「○○さんとキスできて嬉しい」と思っている俳優はひとりもいません。

 また、どんなジェンダーでも性的シーンに抵抗がある人はいるんです。たとえば、男性は男性なりに、「自分がリードしなければならない」などと、負担を感じていたりします。あるいは、加害者にならないようにと考えすぎて消耗するというパターンも、男性に多いと言えるでしょう。そうしたときに、インティマシー・コーディネーターを通して「ここには触らないでください」「キスはこの程度にして、舌は入れないでください」などと、共演相手の要望を事前に把握できていれば、余計な気を遣うこともないですし、安心できるようですね。

 ――監督や俳優が、本番で熱が入って、事前にNGだと言われていたことをしてしまうことはあるのでしょうか。

 もしハリウッドで、本番で事前に同意していた以上の演技を求められた場合は、サインした同意書の内容と違うので、もうその映像は使えません。

 たとえば、俳優が上半身の露出には同意していたが、お尻を出すことは聞いていない場合、現場で急に監督が「お尻も出したい」と演出を変更して撮影したとしても、事前に同意書に書かれていないものは表に出せないのです。日本はアメリカほどの契約社会ではありませんが、監督がそういう約束違反のアドリブを要求したときは同様の判断をすべきでしょう。

 同じように、俳優自身が事前に話し合っていた以上のアドリブをしようとすることに対しても、気をつけなければいけません。なぜなら、インティマシー・シーンにはその俳優だけではなく、相手がいるからです。役に没入して熱演したといえば聞こえがよくても、相手は聞いていたのと違うことをされて驚くでしょうし、場合によっては恐怖すら感じると思います。そもそも、そのシーンは結局カットとなれば、どんなに「いい」演技をしても意味はないと言えるでしょう。

◆このお話のつづき、【インティマシー・コーディネーターってどんな仕事?(後編)~誰もが「イエス」「ノー」を言える環境をつくるには】では、インティマシー・コーディネーターの仕事から見えてくる「同意」の大切さや、ハラスメントを防ぐための知識を、西山さんにうかがいます!

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イミダス編

いみだすへん

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