ウーマン・パワー~フェミニストとしてのオノ・ヨーコ
和田靜香(音楽/相撲ライター)
そして『無限の大宇宙』と同じ年、1973年に発表した『空間の感触』というアルバムで、ヨーコのフェミニストとしての音楽作品が頂点を極める。「アングリー・ヤング・ウーマン」や「ウーマン・パワー」など、すべての曲で女性をテーマに歌う。音楽的にも2020年の今聞いてもまったく古びておらず、改めて大傑作じゃないか! と鼻息が荒くなる私だ。辛い時には「ウーマン・パワー」を聞いて胸を張ろう。落ち込んだら「ラン・ラン・ラン」を聞いて外に出よう。道に迷ったら「アングリー・ヤング・ウーマン」を聞けばいい。
2017年に再発売になった同CDには7曲のボーナストラックが収録され、そのうちの1曲、「コフィン・カー」のライヴバージョンには、曲が始まる前にヨーコが凄絶な体験を語るのが収録されている。それはジョンと知り合い、恋人となった最初の3年間に受けたバッシングのことだ。
アーティストとして自由に生きてきたヨーコに、ジョンの友人たちは「目立たなくしてたほうがいい。口を閉じて黙ってるほうがいい。自分の活動は辞めたほうがいい。そうすると幸せになれる」(『空間の感触』歌詞翻訳)と言ったという。そして広く社会からバッシングをされた。
「お前は死んだほうがいいと思われるようになりました。そのせいで私は……私の中には『罪の意識』がすさまじく貯まり始め、その結果、私は話すときに言葉がスラスラ出ず、つっかえるようになりました。(中略)ずっと自分ではとても雄弁な女だし、魅力的な女だと思ってきたのに、突然、ジョンと付き合ったせいで不細工な女だ――ブスのジャップだと思われるようになりました。(中略)そのときに悟りました。女というのは本当に大変なんだな、って。私ですら、言葉がスラスラ出てこなくなる。それまで30年間強い女として生きてきたのに……3年間そういう風に扱われただけで言葉につっかえる癖がついたんですから……」(同上)
この告白に続いてヨーコが歌った「コフィン・カー」は棺の車という意味で、女性たちは棺の車を乗り回しているという歌だ。前述のように「ゴシップもまた、ヨーコが生み出したアート」と飯村隆彦は書いていて、それには同意するものの、ヨーコを書きたてたゴシップは酷い誹謗中傷に変わりなく、とてつもなくタフな女に見えるヨーコにとっても凄絶な辛い体験だったんだと、この告白には衝撃を受け、涙が出た。その経験がしかし、ヨーコにフェミニストとしての表現者であることを決意させ、その道を強く、強く歩ませていったのは間違いない。

1969年モントリオールでの「ベッド・イン」
今こそ、闘い続けるヨーコを知らないと!
そして1980年。ヨーコとジョンが交互に歌い、ダイアローグのように紡がれたアルバム『ダブル・ファンタジー』が出る。その発売からわずか3週間後にジョンは凶弾に倒れたわけだが、日本盤(2000年の再発版)の帯には「ジョン・レノン、ラスト・アルバム」と書かれている。いや、それはそのとおりなんだが、『ダブル・ファンタジー』はふたりの作品だ。でも、認識はジョン・レノンのアルバムで、ヨーコは参加した人みたいになっている(発売から20年経った時でも、だ)。今もふたりを言う時、その表記は永遠にジョンとヨーコだ。ヨーコとジョンには、ならない。ヨーコが声を枯らして歌って、訴えてきたことは、なかなか理解されず、道半ばだ。
さらに、忘れてはいけない。2001年にはヨーコは女性への暴力をテーマにしたアルバム『ブループリント・フォー・ア・サンライズ』を発表した。これも聞くべき1枚だ。2018年にはヨーコは過去の自身の曲をレコーディングし直したアルバム『ウォーゾーン』を出し、世間を驚かせた。長年ジョンだけの作品とクレジットされてきた
「イマジン」が、この前年にヨーコとジョンの共作として認められたこともあったろう、ヨーコ版の「イマジン」も収録され、85歳になったヨーコの歌声はごつごつとした祈りのようだ。また「ウーマン・パワー」も再録。#MeTooに呼応し、ヨーコが頷いているかのような大きさを感じる。なんと長い間ヨーコは闘い続けていることだろう。
オノ・ヨーコ。アーティスト/フェミニスト。今こそ、もっと彼女を知りたくなっている。
*『ダブル・ファンタジー展 ジョン&ヨーコ』2020年10月9日~2021年2月18日 ソニーミュージック六本木ミュージアムにて開催。オフィシャルサイトはこちら。
著者情報
音楽/相撲ライター
和田靜香
わだ しずか
1965年千葉県生まれ。音楽評論家・作詞家の湯川れい子のアシスタントを経てフリーの音楽ライターに。趣味の大相撲観戦やアルバイト迷走人生などに関するエッセイも多い。著書に『スー女のみかた 相撲ってなんて面白い!』(シンコーミュージック)、『音楽に恋をして♪ 評伝・湯川れい子』(朝日新聞出版)、『ワガママな病人vsつかえない医者』(文春文庫)、『おでんの汁にウツを沈めて~44歳恐る恐るコンビニ店員デビュー』(幻冬舎文庫)、『東京ロック・バー物語』(シンコーミュージック)などがある。近著『時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた。』(左右社)が話題。