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連載

「助けるのは当たり前」~小学生が立ち上げたロヒンギャ支援

第21回

木村元彦(ノンフィクションライター、ビデオジャーナリスト)

 何かのめぐり合わせのように記者たちに活動のことを発表することができた。まさにその場からクラウドファンディングのスタートボタンを押したのである。
 寄付のリターンは、500円の人には「お礼のメール」、2000円の人には「メール、活動報告、缶バッジ」3000円の人には「手書きの手紙、活動報告、缶バッジ」と定めた。2年生の悠喜君はバッジに「やさしさいっぱい、ありがとう」と書いた。

「協力してくれる人を優しく感じたから」(悠喜君)

リターン用に手作りした缶バッジ

思いもよらない大金が集まって…

 当初の目標は10万円だった。それは遠いゴールのようにも思えた。ところが、誰もが想像しなかった展開になっていく。記事を見た人たちの反応は鋭く、目標設定した10万円は24時間で達成されてしまった。それどころか、クリアしてからも賛同の輪は加速度がついたように広がり続けた。ネット上だけではなく、4人の通う学校に直接やって来て「新聞を読みました」と告げて支援品を渡してくれる人まで現れた。
 ほんの1週間で目標の20倍の200万円に到達し、最終的に期日までの2カ月間で300万円を突破したのである。

 丁寧にリターンを返しながら、あまりの反響に今度はこの高額な寄付をどのように有効に活用するかが議論の中心になった。

「僕は正直、プレッシャーを感じました。こんなに多くの人からこんなに多くの支援をもらって、ちゃんと届けないと期待を裏切ったことになる。それは絶対、いけないことですから、ますます真剣に考えました」(大喜君)

「自分たちが言っていたことをちゃんとやり遂げないといけないし、僕たちを信頼してくれた人の期待を絶対に無駄にしてはいけない。目標にしていた10万円分だったら、それで買ったものを、例えばアウンティンさんがキャンプに行かれるときに持っていっていただこうと思っていたのですが、300万円分になっちゃうと、さすがに1人で持ちきれないから渡せない。どうやったら難民の人たちに渡せるのかなと悩みました。最初は文房具とサッカーボールを送ろうと言っていたのも、お金がどんどん増えてからは、さらにどうしようと考えました」(聡真君)

 4人は多くの専門家の話を聞くことにした。実際にロヒンギャの難民キャンプへの支援を続けている「世界の医療団(MDM)」の職員、中嶋秀昭さんと木田晶子さん、そして現地を踏んだジャーナリスト。さらには駐バングラデシュ日本大使館の伊藤直樹大使にもオンラインで質問をぶつけた。

「中嶋さんと木田さんからは、夜になるとキャンプ内で“ギャング”が出てきて困っているということを聞きました。ロヒンギャは男性の方が立場が上なので、女性は昼間はトイレにいけなかったり、自由に行動できなくて夜にしか動けないのに」(聡真君)

 キャンプでは多くのNGOの支援によって公衆トイレこそ整備されたが、ロヒンギャにおいては男性の立場が常に優先されるので、女性は昼間に用をたすことができず、夜になって外に出て行く。しかし、すでにキャンプは真っ暗であり、闇に乗じての強盗や誘拐が多発していることが報告されている。

「男、何やっているんだと思いました」(大喜君)

「電気がなくて夜は真っ暗になると言うから、『え!だったら、懐中電灯、必要じゃない?』ということで送るものの中に入れようと決めました」(杏さん)

 伊藤大使は「君たちの活動はとても大事なことだから、応援する。自分たちのことを思ってくれている人が日本にいる、ということがロヒンギャの人たちに伝わることが大切です」と励ましてくれた上で、日本大使館としてこの活動に全面協力すると言ってくれた。
 支援とは何かを考えるときに、筆者は、直接必要なものを現地に聞いてみたらどうか?というアドバイスを送った。キャンプの学校で教えている教師たちに今、何が足りなくて困っているのか、と問い合わせるのだ。当事者の声を聞くことで現地の状況もさらに知ることができる。広大なキャンプ内の通信は厳しく制限されていることもあって劣悪であるが、かろうじてWi-Fiが繋がるエリアも存在する。4人と現地の会談の通訳は、ミャンマー語、ロヒンギャ語、日本語が堪能な貴重な人材、在日ロヒンギャ二世の長谷川留理華(るりか)が担ってくれることになった。

 4人はリモートで在日ビルマロヒンギャ協会が支援・運営している学校の教師と向き合った。現場からの忌憚のない意見が届けられた。ひとことで言えば、最も必要なお金が足らない。子どもたちを教えている自分たちの給料も滞っていて、その不安にも押しつぶされそうになっているという。要は現金が何より必要という生々しい内容であった。300万円という多額な寄付金を前にすれば、当然と言えば当然の声であろう。
 しかし、教師のモチベーションも大切ではあるが、学校の運営主体である在日ビルマロヒンギャ協会にすれば、ただ一過性の給与として送られるのであれば、今後の活動に支障をきたす可能性がある。給与の相場が一度崩れることで、他者との比較にも繋がり、混乱も招きかねない。恒常的に支えてきたのは協会なのだ。その意見は無視できない。

 4人にとって、支援とは何かということを考える大きな機会になった。保護者である真弓さん、由希子さんも交えて、MDM、伊藤大使、現地との対話を重ね、原則として必要な物資を送ること、すでに支援している活動を阻害しないこと、継続性を考えること、が確認されていった。
 やがて信頼できる現地パートナーが見つかった。写真や動画を熱心に送ってくれては現地の状況を丁寧に説明してくれる教師で、必要な物資のリストの提示もしてくれた。送った後の報告も確約してくれた。

コロナ禍の最中で、キャンプの子どもたちもマスクをつけている

「子どもを叩く大人」に負けず

 今あらためて振りかえり、4人と真弓さん、由希子さんの勇気に敬意を表したい。15歳で気候変動対策の抗議を行ったスウェーデンのグレタ・トゥーンベリさんの例を持ち出すまでもなく、若い世代が発言をすること自体を嫌悪する層が、数多く存在する。たとえ真っ当な主張でも子どもが社会に向けて発信すると、堰を切ったようにネット上でのバッシングが行われるのだ。グレタさんの場合はトランプやプーチンなど大国の首脳までもが、名指しで攻撃を行った。これはいわゆる「犬笛」と呼ばれる行為で、大きな権力を持った人物が煽動することで、その取り巻きや支持者たちも尻馬に乗って叩き出すのが常である。

 ロヒンギャ難民について言えば、駐ミャンマー日本大使の丸山市郎がロヒンギャのことを「ベンガル人」と発言した。これはすなわち「ロヒンギャは国外に追い出されて然るべき違法移民」であるとするミャンマー政府に阿(おもね)った発言であり、いわば官製の差別煽動=ヘイトスピーチである。これに対して在日ビルマロヒンギャ協会は外務省に抗議行動を起こしているが、大使の発言だけに煽られて4人の献身的な募金活動に攻撃をしてくる大人がいないとも限らない。すでに4人の名前は報道でも公になっている。

「募金のことがヤフーニュースに載ったときに、コメントで『そういうのに乗っちゃダメだよ』『子どもが使われて可哀想』って書いてる人がいて、こういう人もいるんだなって思いました。でもおかしいじゃないですか。困っている人を助けたいだけなのに。まったくもう気にしてません」(聡真君)

「みんなが応援してくれて、なんかうれしかった」(悠喜君)

 由希子さんは「授業でも教えているそうなんですが、この人たちの世代はデジタルネイティブなので、ネットでやって良いこと、悪いことを、今のまだ真っ白な間にちゃんと教えていかないと、と思って接していました」と言う。

「支援はまだまだこれから」

 2020年12月25日。クリスマスの日に真弓さんと由希子さんはバングラデシュへの1度目の送金を完了させた。送金は1年がかりで4回に分けて行う予定である。集まった支援物資は船便で郵送した。真弓さんはフェイスブックにこんな文章を残している。

著者情報

ノンフィクションライター、ビデオジャーナリスト

木村元彦

きむら ゆきひこ

1962年、愛知県生まれ。中央大学卒業。東欧やアジアを中心に、スポーツ文化や民族問題などの取材、執筆活動を続ける。著書に『誇り』(98年、東京新聞出版局)、『悪者見参』(2000年、集英社)、『終わらぬ「民族浄化」セルビア・モンテネグロ』(05年、集英社新書)、『蹴る群れ』(07年、講談社)、『社長・溝畑宏の天国と地獄』(10年、集英社)、『争うは本意ならねど』(11年、集英社インターナショナル)、『徳は孤ならず』(16年、集英社)、『橋を架ける者たち』(16年、集英社新書)、『無冠、されど至強』(17年、ころから)、『コソボ 苦闘する親米国家 ユーゴサッカー最後の代表チームと臓器密売の現場を追う』(23年、集英社インターナショナル)など多数。『オシムの言葉』(05年、集英社インターナショナル)で第16回ミズノ・スポーツライター賞を受賞。

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