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連載

保守主義――次代に何を伝えるのか

吉田徹(同志社大学教授)

 果たしてフランス料理のフルコースとワインのマリアージュを前にして、彼らは瞬く間に美食の虜になります。老人となった村人たちの間では時間が経つにつれて不和が目立つようになっていましたが、美味しい料理を前に恍惚の表情を浮かべ、心をひとつにします。
「今夜私は悟りました。この美しい世界ではすべてが可能であることを」――実はかつてパリの名門店の料理長だったバベットの振る舞う料理を平らげた人物が発する一言です。それまで、村人たちをはじめとする登場人物たちは、人生をかくあるべしと考え、それゆえに、自らの選択が正しいのかどうか、常に疑念につきまとわれていました。そうではなく、奇跡的ともいえる現在の生を肯定して、初めて人は幸せになれることをバベットの晩餐会で体得したのです。バベットを通じて村人たちが知ることになったのは、神への忠誠の証したる禁欲ではなく、自分と生活を分かち合う仲間たちと共有する愉しみだったのです。
 この映画は、宗教革命を起こして禁欲的で個人主義的なエートスを大事にするプロテスタントに対して、歴史的に培われてきた生の悦びと共同性のエートスを大事にするカトリックによる反論としてみなすこともできます。ただ、そのバベットは、宝くじで得た大金を晩餐会のためにすべて使い果たし、姉妹とともに余生を送る決心をすることから、両派の共存を訴えるものでもあるでしょう。

 日本の保守主義知識人である福田和也に、『保守とは横丁の蕎麦屋を守ることである』(河出書房新社、2023年)という本があります。彼は、彼岸に価値を置くのではなく、今生きている人とのつながりを大事にし、その中で生きることこそが日本の一般的価値だとした上で「自分の生活スタイルを保持すること、そのために失われやすいものに対して、鋭敏に、かつ能動的に活動する精神を、保守と言う」と、冒頭で紹介したバークと同じことを指摘しています。
『目撃』は喪失される正義と正直さを、『LBJ』はアメリカの人種を超えた自由を、そして『バベットの晩餐会』は現在の生への感謝を視聴者に改めて差し出すことで、失われやすいものを保守することの大切さをそれぞれ訴える作品です。これらが問うのは、保守主義という概念が提示するものとは、私たちが何を大事に思うのか、何を価値として次世代に伝えたいのか、というものでもあるのです。

著者情報

同志社大学教授

吉田徹

よしだ とおる

1975年生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。専門は比較政治学、ヨーロッパ政治。著書に『ミッテラン社会党の転換』(2008年、法政大学出版局)、『二大政党制批判論』(2009年、光文社新書)、『ポピュリズムを考える』(2011年、NHK出版)、『感情の政治学』(2014年、講談社)、『「野党」論』(2016年、ちくま新書)、『アフター・リベラル』(2020年、講談社現代新書)などがある。

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