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特集

「1995」再考

座談会 「1995」とは何だったのか/①イントロダクション

雨宮処凛(作家、活動家)

香山リカ(医師)

浜崎洋介(文芸批評家)

吉田徹(同志社大学教授)

(構成・文/加藤直樹)

香山リカ(医師) 1960年生まれです。95年に何をしてたのか、よく思い出せないんですよね。そのころ何を書いてたんだろうと自分の著作を確認したら、94年に『自転車旅行主義』っていう本を出してた。今思うと顔が赤くなるんだけど、当時最先端だった分析哲学と精神医学を合わせたような本でした。80年代文化を引きずってましたね。
 私の人生は「アリとキリギリス」なんです。80年代~90年代は「キリギリス」で、今は「アリ」。医者として月曜から土曜日まで北海道の僻地へきちの診療所で働いています。
 子どものころは戦後民主主義教育の時代です。教員たちも戦中世代で、満州からの引き揚げの話なんかをしながら、平和の大事さを語り、平和憲法がデフォルトの結論として語られていました。これが「最終回答」なんだと。それ以上は考えなくてもいい、くらいの感じでした。
 1986年に医学部を卒業して医者になったんですが、自分の軸足は、サブカル的なものの方にありました。私はとても80年代的な人間というか、80年の文化にいろいろ影響を受けていました。音楽だとニューウェーブ、哲学だとポストモダン思想。浅田彰さんの『構造と力』とか。さっきアール・ヴィヴァンの話が出ましたが、あれも80年代の西武文化、セゾン文化ですよね。当時は他にもポルト・パロールっていう、詩ばっかり売ってる本屋さんがありました。詩集だけを売ってる本屋がデパートの中にあるなんて、今なら考えられないと思う。
雨宮 今だったら一瞬でつぶれてますよ(笑)。
香山 そういうのがおしゃれなんだという時代でしたね。あと、80年代は価値相対主義の時代でもありました。浅田さんなんかが冷笑的に「差異の戯れ」なんて言ってたけど、絶対的な真理はもう解体されたんだと。「正義とは何か」とかね、「愛とは何か」みたいな大きな問題とか、もちろん「自分とは何か」みたいな問いにも意味はないんだと。
 90年代に入っても、そういうリベラルな価値観はデフォルトだと思ってました。バブル崩壊で経済が傾き始めても、そんなのは一過性のことだろうと能天気に思ってました。
 でも95年あたりから、「あれ、おかしいぞ」という感覚が自分の中に生まれてきた。最終回答だと思ってたものが、どうも違うようだと。
 たとえば、80年代にYMOとかプラスチックスとか、世界標準でも新しい音楽が出てきてたはずなのに、90年代には分かりやすすぎるユーロビートの小室サウンドがメガヒットするようになった。すぐに消えるだろうと思ってたのに、かなり根強い。これは何だろうと。
 そして、97年には「新しい歴史教科書をつくる会」ができて、翌年には、さっき雨宮さんが言ってた小林よしのり『戦争論』が出てくる。いつの間にか、そういうものが芽吹いていた。そんなダサいもの、すぐつぶれるよとか思っていたのが、今から思えば返す返すも残念というか、悔しいというか。いや、私がそう思ってもしょうがないんですけどね。
 そういうことにまだ気が付かずに、「いや、そんなわけあるまい」と自分のなかで否認しながら80年代文化を引きずっていたのが、私にとっての95年でした。
 今はそんな時代に対する贖罪をしたい気持ちもあって、僻地に赴いて診療所で医者として真面目に働いています。

著者情報

作家、活動家

雨宮処凛

あまみや かりん

1975年、北海道生まれ。反貧困ネットワーク世話人。バンギャ、フリーター、右翼活動家などを経て2000年、自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版/ちくま文庫)でデビュー。2006年からは貧困問題に取り組み、『生きさせろ! 難民化する若者たち』(2007年、太田出版/ちくま文庫)は日本ジャーナリスト会議のJCJ賞を受賞。著書に『学校では教えてくれない生活保護』(‎河出書房新社、2023年)、『死なないノウハウ 独り身の「金欠」から「散骨」まで』(光文社新書、2024年)など多数。

医師

香山リカ

かやま りか

1960年北海道生まれ。東京医科大学卒業。学生時代より雑誌等に寄稿。その後、精神科医として臨床に携わりながら、一般読者向けの著作活動を行う。著書に『女は男のどこを見抜くべきか』(集英社)、『執着 生きづらさの正体』(集英社クリエイティブ)、『「いじめ」や「差別」をなくすためにできること』(ちくまプリマー新書)、『61歳で大学教授やめて、北海道で「へき地のお医者さん」はじめました』(集英社クリエイティブ)など多数。

文芸批評家

浜崎洋介

はまさき ようすけ

1978年埼玉生まれ。雑誌『表現者クライテリオン』編集委員。京都大学大学院特定准教授。2022年『小林秀雄の「人生」論』(NHK出版新書)で、第31回山本七平賞奨励賞受賞。そのほかの著書に『福田恆存 思想の〈かたち〉イロニー・演技・言葉』(新曜社)、『反戦後論』(文藝春秋)、『三島由紀夫 なぜ、死んでみせねばならなかったのか』(NHK出版)、『ぼんやりとした不安の近代日本』『小林秀雄、吉本隆明、福田恆存――日本人の「断絶」を乗り越える』『日本人の「作法」 その高貴さと卑小さについて』(いずれもビジネス社)がある。

同志社大学教授

吉田徹

よしだ とおる

1975年生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。専門は比較政治学、ヨーロッパ政治。著書に『ミッテラン社会党の転換』(2008年、法政大学出版局)、『二大政党制批判論』(2009年、光文社新書)、『ポピュリズムを考える』(2011年、NHK出版)、『感情の政治学』(2014年、講談社)、『「野党」論』(2016年、ちくま新書)、『アフター・リベラル』(2020年、講談社現代新書)などがある。

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