座談会 「1995」とは何だったのか/③「小春日和」の終焉
(構成・文/加藤直樹)
吉田 スターリンをムッソリーニが模倣したように、右の側も左の側も微妙に模倣し合ってるんですよね。あの時代に流行ったポストコロニアル批評は構成主義・構築主義の走りでしょう。歴史は、強者によるフィクションであると批判する。そうしたら、右の側も自分たちの歴史をフィクションとしてつくっていいはずだとなりますよね。左翼がリベラル化していくときに、そのカウンターとして右からの歴史修正主義が出てきたといえます。
雨宮 「小春日和」という言葉を聞いて、むっちゃ『戦争論』の冒頭を思い出しました。まさに小春日和の話が出てくるんですよ。一言目に「平和である/なんだかんだ言っても…/日本は平和である」ときて、「世の中は不況だリストラだと言ってるが/ワイン教室に通って勉強するおっさんやらソムリエ目指す娘もいるらしい/大蔵省と金融業界の接待癒着を非難しながら公務員は私益を考えてはならぬ公益のみだとクギを刺し/自分は規制緩和だとはしゃいで未だに金もうけ以外の価値は見つけられない」「家族はバラバラ離婚率も上昇/主婦売春/援助交際という名でごまかす少女売春/中学生はキレる流行にのってナイフで刺しまくり/若者はマユ剃って化粧してパックしてお顔のお手入れに余念のない昨今…/平和だ…あちこちがただれてくるよな平和さだ」。
この本が出たのが98年。このくだりは、90年代後半の気分をむちゃくちゃ表してますよね。でも中学生がナイフで人を刺した事件なんて数件ですよね。若者が眉を剃るのも別に普通じゃないですか。文句を言う必要ないですよね。だけど、これに共感したんですね、けっこうな人たちが。

香山リカ氏
香山 95年、96年ごろって、確かに、どっちに転ぶか分からない、宙ぶらりんな感じだったと思うんですよ。阪神淡路大震災があり、サリン事件があり、バブルも崩壊したけど、でもまた戻るだろう、なんとかなるだろうという雰囲気もあった。
私、そのころ精神科医をやってたので、そこに引きつけて言うと、そのころすでに、会社がつぶれたとか、クビになったという患者さんたちが増えていました。「会社をクビになって、眠れないんです」とか。でも、まだなんとかなるんじゃないかって、患者さんも思ってたし、私も「またすぐに次の職場が見つかりますよ」なんて安請け合いしていた。
それが、それから数年経つと自殺者が増え始めるんですね。98年に急激に増えて、全国で自殺者が3万人を超える。不思議に思うのは、倒産や解雇は95年にはすでに始まっていたのに、自殺者が増えるのは少し後だったということなんですね。もちろん、97年に山一証券とか、北海道拓殖銀行という北海道のメインバンクが破綻するなどという背景もあるんだけど。やっぱり、「まだなんとかなるかも」っていう雰囲気があったからなんじゃないかと思うんですね。
でもそれが、97年、98年くらいになると、どうも取り返しがつかないことになっているようだ、なんともならないようだという感じになって、自殺者が増えていった。そこから2011年まで、ずっと3万人台ですよ。
雨宮 私も94年にフリーターになったけど、最初はあと2、3年もすれば景気が回復するみたいな話をみんな、してたんですよ。いよいよヤバいなと思ったのが、たぶん97年ぐらい。だから私、右翼団体に入ったんですよ、その時期。
(「④「リベラル」とは何か?」につづく)
著者情報
作家、活動家
雨宮処凛
あまみや かりん
1975年、北海道生まれ。反貧困ネットワーク世話人。バンギャ、フリーター、右翼活動家などを経て2000年、自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版/ちくま文庫)でデビュー。2006年からは貧困問題に取り組み、『生きさせろ! 難民化する若者たち』(2007年、太田出版/ちくま文庫)は日本ジャーナリスト会議のJCJ賞を受賞。著書に『学校では教えてくれない生活保護』(河出書房新社、2023年)、『死なないノウハウ 独り身の「金欠」から「散骨」まで』(光文社新書、2024年)など多数。
医師
香山リカ
かやま りか
1960年北海道生まれ。東京医科大学卒業。学生時代より雑誌等に寄稿。その後、精神科医として臨床に携わりながら、一般読者向けの著作活動を行う。著書に『女は男のどこを見抜くべきか』(集英社)、『執着 生きづらさの正体』(集英社クリエイティブ)、『「いじめ」や「差別」をなくすためにできること』(ちくまプリマー新書)、『61歳で大学教授やめて、北海道で「へき地のお医者さん」はじめました』(集英社クリエイティブ)など多数。
文芸批評家
浜崎洋介
はまさき ようすけ
1978年埼玉生まれ。雑誌『表現者クライテリオン』編集委員。京都大学大学院特定准教授。2022年『小林秀雄の「人生」論』(NHK出版新書)で、第31回山本七平賞奨励賞受賞。そのほかの著書に『福田恆存 思想の〈かたち〉イロニー・演技・言葉』(新曜社)、『反戦後論』(文藝春秋)、『三島由紀夫 なぜ、死んでみせねばならなかったのか』(NHK出版)、『ぼんやりとした不安の近代日本』『小林秀雄、吉本隆明、福田恆存――日本人の「断絶」を乗り越える』『日本人の「作法」 その高貴さと卑小さについて』(いずれもビジネス社)がある。
同志社大学教授
吉田徹
よしだ とおる
1975年生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。専門は比較政治学、ヨーロッパ政治。著書に『ミッテラン社会党の転換』(2008年、法政大学出版局)、『二大政党制批判論』(2009年、光文社新書)、『ポピュリズムを考える』(2011年、NHK出版)、『感情の政治学』(2014年、講談社)、『「野党」論』(2016年、ちくま新書)、『アフター・リベラル』(2020年、講談社現代新書)などがある。