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特集

「1995」再考

座談会 「1995」とは何だったのか/④「リベラル」とは何か?

雨宮処凛(作家、活動家)

香山リカ(医師)

浜崎洋介(文芸批評家)

吉田徹(同志社大学教授)

(構成・文/加藤直樹)

浜崎 1960年代までは、リベラルも国家を前提にしていたんですよね。格差からの自由、貧困からの自由、病からの自由を実現するためには国家が必要だろうと。それで、アメリカなんかでも、福祉国家リベラル(ケインズ主義)が時代を作っていくことになった。でも、それが1970年代の過剰労働人口の枯渇とオイルショックでモノが売れなくなると、「脱工業社会の到来」(ダニエル・ベル)と共に、経済思想としてのネオリベラリズムと、社会思想としてのポストモダニズムが仲良く手を取り合って登場してくる。しかも、後者は、ポストモダン的多元主義と称して、「アイデンティティ・ポリティクス」という武器でもって、単なる個人的な「愚痴」を社会化して語る手口を作り出していくと。でも、そこには、まさに「自由の条件」への問いがないんです。 まず、人々が「自由」であるためには、ある程度の「平等」(格差からの自由)が担保されていなければならない。が、誰も無差別に平等であるわけはないんだから、そこにはおのずと「われわれ」の範囲を決める「決断」(シュミット)が求められると同時に、いざという時、その同胞を守るための「戦士」が必要になる。ということは、「自由と平等」の前提には、同胞愛と、それに殉じる自己犠牲の「美徳」が必要になるはずなんです。そして、ここまで考えた時、ようやく「自由と平等」を語ることができるんですよ。
 ここまで考えるのが成熟した大人というものでしょう。でも、それをちゃんとした言葉で誠実に語る人が少なすぎると思う。それが「リベラル」の問題だと思います。
吉田 もともと、古典的なリベラリズムは、自己修養の考え方だったんです。近代のリベラルとは、特定の人格形成や、卓越した人格を目指すことを指していた。当然ながら、20世紀後半以降は、リベラルの意味合いは変わってきました。だから、リベラリズムを担う人格という問題を抜きにした日本のリベラル論議というのが本当に成り立つのだろうかというのは、確かに疑問に思いますね。
 香山さんの言ったことと通じますが、日本のリベラルって、無関心と紙一重なんですよね。たとえば、リベラルの中には「寛容」という価値がありますが、英語ではトレランス、もともとは「トラーレ」、つまり「我慢する」という意味だったんです。違う存在に対して、どうにかこうにか折り合いをつけて生きていくというのが、リベラルの本来的に持っている態度です。でも日本のリベラルって、それが「他人の私的領域に介入しない」というかたちでしか成り立っていない。
 裏を返すと、他人に対して無関心であってもいいということが許されるのが、あるいはそうであるべきだというのが、日本的なリベラルの非常に特殊な、ガラパゴス的なところではないかなと感じます。
(7月27日(月)公開の『⑤「リベラル」と「保守」』につづく)

著者情報

作家、活動家

雨宮処凛

あまみや かりん

1975年、北海道生まれ。反貧困ネットワーク世話人。バンギャ、フリーター、右翼活動家などを経て2000年、自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版/ちくま文庫)でデビュー。2006年からは貧困問題に取り組み、『生きさせろ! 難民化する若者たち』(2007年、太田出版/ちくま文庫)は日本ジャーナリスト会議のJCJ賞を受賞。著書に『学校では教えてくれない生活保護』(‎河出書房新社、2023年)、『死なないノウハウ 独り身の「金欠」から「散骨」まで』(光文社新書、2024年)など多数。

医師

香山リカ

かやま りか

1960年北海道生まれ。東京医科大学卒業。学生時代より雑誌等に寄稿。その後、精神科医として臨床に携わりながら、一般読者向けの著作活動を行う。著書に『女は男のどこを見抜くべきか』(集英社)、『執着 生きづらさの正体』(集英社クリエイティブ)、『「いじめ」や「差別」をなくすためにできること』(ちくまプリマー新書)、『61歳で大学教授やめて、北海道で「へき地のお医者さん」はじめました』(集英社クリエイティブ)など多数。

文芸批評家

浜崎洋介

はまさき ようすけ

1978年埼玉生まれ。雑誌『表現者クライテリオン』編集委員。京都大学大学院特定准教授。2022年『小林秀雄の「人生」論』(NHK出版新書)で、第31回山本七平賞奨励賞受賞。そのほかの著書に『福田恆存 思想の〈かたち〉イロニー・演技・言葉』(新曜社)、『反戦後論』(文藝春秋)、『三島由紀夫 なぜ、死んでみせねばならなかったのか』(NHK出版)、『ぼんやりとした不安の近代日本』『小林秀雄、吉本隆明、福田恆存――日本人の「断絶」を乗り越える』『日本人の「作法」 その高貴さと卑小さについて』(いずれもビジネス社)がある。

同志社大学教授

吉田徹

よしだ とおる

1975年生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。専門は比較政治学、ヨーロッパ政治。著書に『ミッテラン社会党の転換』(2008年、法政大学出版局)、『二大政党制批判論』(2009年、光文社新書)、『ポピュリズムを考える』(2011年、NHK出版)、『感情の政治学』(2014年、講談社)、『「野党」論』(2016年、ちくま新書)、『アフター・リベラル』(2020年、講談社現代新書)などがある。

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